はじめに:ロック史を塗り替えた革新者
ロック音楽の歴史を振り返る時、エドワード・ヴァン・ヘイレン(エディ)と彼の率いたバンド「ヴァン・ヘイレン」の存在を無視することはできない。ジミ・ヘンドリックスと並び、エレキギターという楽器の表現方法や可能性を根底から覆し、現代に至るまでのロックシーンに絶大な影響を与えた最大の功労者である。今回は、彼らの歩んできた軌跡から、数々の伝説的なスタジオワーク、そしてギターに捧げた常軌を逸した情熱について深く掘り下げていきたい。
最初に売れた大ヒット曲がキーボードメインの「Jump」という皮肉
1978年のデビュー以来、圧倒的なテクニックとハードロックの王道を突き進んできたヴァン・ヘイレンであるが、彼らのキャリアにおいて最大の商業的成功を収め、全米ナンバーワンを獲得した代表曲といえば、1984年にリリースされた「ジャンプ(Jump)」である。
ここで非常に面白い皮肉と言えるのが、世界中のハードロックファンを唸らせたギターヒーローのバンドでありながら、彼らをチャートの頂点へと押し上げた最大のヒット曲が、ギターではなく「キーボード(シンセサイザー)のフレーズがメインとなったポップな楽曲」だったという点だ。エディが奏でる鮮烈なシンセサイザーのリフは、当時のロック界に衝撃を与え、ヘヴィメタルとポップミュージックの壁を軽やかに打ち破ってみせた。
最高に「手癖の悪い」ギタリストが生み出す唯一無二のグルーヴ
エディのギタープレイを語る上で欠かせないのが、その圧倒的なリズム感と、野村義男氏もYouTubeの対談等で「手癖が悪い」とユーモアを交えて絶賛する独特のフレージングセンスである。
単に速弾きやライトハンピング(タッピング奏法)などのテクニックが凄まじいだけでなく、歌モノのバックグラウンドであっても、まるで暴れ馬のように縦横無尽にフレーズが動き回る。リズムのキレとグルーヴ感が驚異的に優れているため、どれほど複雑で変幻自在なフレーズを弾いても楽曲全体のバランスを崩すことなく、むしろ圧倒的な色気と躍動感をもたらす。この「型破りでありながら完璧に心地よい」スタイルこそが、多くのギタリストを魅了してやまない理由である。
エディーの狂気のスタジオワーク:スピーカーの微妙なズレをエフェクター代わりに
エディの音作りやレコーディングに対するこだわりは、常人の発想を遥かに超越していた。その真骨頂が、彼が行った徹底的なスタジオワークの実験にある。
エディはスタジオを同時に3つも押さえ、演奏用の部屋、そして音を出力するためのスピーカーを配置した部屋を複数用意した。そして、わずかに距離を離したスピーカーの間で生まれる「音の微妙なズレ(ディレイ効果や空気感)」を物理的に利用し、市販のエフェクターを通すのとは異なる、生々しく有機的な音の奥行きを作り出したのである。こうした狂気的なまでの音響実験の積み重ねが、誰も真似できない唯一無二の「ヴァン・ヘイレン・サウンド」を構築していった。
さらに、マイケル・ジャクソンの歴史的名曲『今夜はビート・イット(Beat It)』の伝説的なギターソロにおいても、エディは自身のトレードマークである圧倒的なプレイをノーギャラ(無報酬)で提供したという逸話が残っている。音楽的な面白さや挑戦のためであれば労を惜しまない、彼のロックンロールに対する純粋な姿勢が伺えるエピソードである。
市販品ではなく自ら組み立てペイントした「フランケン」ギター
エディのトレードマークといえば、赤、白、黒のストライプ模様が強烈なインパクトを放つ自作ギター「フランケンシュタイン(フランケン)」である。
当時はお金がなかったことや、「自分が理想とするスペックのギターが市販されていなかった」という理由から、アウトレットでパーツを買い集め、自分でボディを組み立て、自転車用のスプレーでペイントを施したのが始まりだった。配線方法が分からなかったためピックアップが1つだけになり、それが結果的に独自のダイレクトなサウンドを生むことになったというエピソードは有名だ。
のちにこの奇抜なデザインが世間に知れ渡ると、日本のギタリストである布袋寅泰氏が自身のギターデザイン(HOTEIモデルのギタリズム柄)に取り入れたのではないかという「真似した疑惑」がファンの間でまことしやかに囁かれるなど、ルックス面でも世界の音楽シーンに計り知れないインパクトを残した。
野村義男がYouTubeで熱弁する、正気ではない録音技術と研究心
日本のミュージシャンである野村義男氏がYouTubeの専門チャンネル等で熱弁しているように、エディの楽器や録音に対するアプローチは「もはや正気の沙汰ではない」ほどの研究心に裏打ちされている。
ただギターが上手いという次元にとどまらず、ギター本体の改造、アンプの改造、レコーディング環境の構築、そして両手を使ったタッピング奏法の極限までの昇華など、常に「新しい音」を求めて試行錯誤を繰り返していた。その姿勢は、プロのミュージシャンをも唸らせるほどの底知れない探究心に満ちていたのである。
ここで、野村義男氏がエディの凄まじさについて語っている興味深い対談動画をご紹介しよう。
エレキギターという分野への最大の貢献で締めくくる
エドワード・ヴァン・ヘイレンが音楽界に残した足跡は、単なる一つのバンドの成功に留まらない。
物理的な機材の改造、革新的な奏法の開発、そして常識にとらわれない自由な発想力によって、エレキギターという楽器が持つ表現の可能性を何倍にも広げてみせた。私たちが現在耳にするモダンなロックやハードロックのサウンドスケープの多くは、彼が切り拓いた荒野の上に成り立っていると言っても過言ではない。永遠のギター・ヒーローであるエディが遺した革新の精神は、これからも色褪せることなく、世界中の音楽愛好家の心の中で鳴り響き続けるだろう。

